| koei ブラジル通信 |
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■ご先祖様 (つづき)さて、人名はどうだろうか。
たとえば、筆者の「小笠原」である。「おがさわら」と読む。これ以外に読み方があろうとは想像もしていなかった。数年前、ジュニアクラスに同姓の小学生が入学してきた。聞いてびっくり、「おがさはら」という。正真正銘、このときに初めて知った事実である。
同名なのに読み方の異なる例はたくさんある。「中島」を「なかじま」「なかしま」とか、「小口」を「おぐち」「こぐち」、「上村」を「うえむら」「かみむら」、また「正田」を「しょうだ」「まさだ」、あるいは「大谷」を「おおたに」「おおがい」、なかには「角田」のように、「すみだ」「すみた」「かくだ」「かくた」など三通り以上になる場合もある。
移民原簿にカナはふられていない。ではどう読むか、読み手にまかせるしかない。私だったら、「小笠原」はぜんぶ「おがさわら」にしてしまうだろう。本当は「おがさはら」だとしても、それを知る手立てはない。
名字にこれだけ苦労しても、名前にくらべるとまだマシである。それはほとんどカオスといってよい。たとえば「重二」。「じゅうじ」とは断定できない。「しげじ」(実在する)かもしれない。「武治」は「たけはる」か「たけじ」か(親戚にいる)、あるいは「ぶじ」と、読ますことだってできるのである。
筆者の「公衛」は「きみえい」でも「きみもり」でもない。カナでもふらないかぎり、最初から「こうえい」とは読(呼)んでもらえない。家内の「純子」も一般には「じゅんこ」が大勢を占めるが、「すみこ」である。知るものがいればよし、後世にいたって、正確な読みが「永遠の謎」となる可能性を秘めている名前はあまりに多い。
日本語の場合、元になる漢字は「不動」だから読み方がちがうだけですむ。横文字は、1字でもスペルがちがうと大ごとだ。本人とは特定されない。おまけにたとえば「ち」→「TI」、「は」→「RA」などのように、ポルトガル語独特の読みがからんでくると、混乱にいっそう拍車がかかる。
障害はまだある。明治大正の、それも地球の反対側の異国のこととて、当然ながら記入は手書きである。これはいったいなにを意味するか。「旧字」「くずし字」「異字」のオンパレードである。
旧字はやたら字画が多く込み入って、いちいち活字体で書くのはたいへんだ。くずしたり、略したり、あるいは他の字で代用されたりするのも無理はない。それで教育を受けた人にとって読みこなすのは造作もないにちがいない。
戦後生まれの人間にはほとんど「古文書」である。くずし字辞典、漢和辞典を駆使して読み解くのに難儀する。苦痛をともなうこともしばしばだ。
こうした障壁を木っ端微塵に打ち砕いてくれる秘密兵器が、実はある。
サントスに上陸した移民というのは、時を移さず列車でサンパウロまで運ばれる。州立の施設にいったん収容されるのだが、そのさい名前を聞かれて登録する。その台帳がのこっているのだ。
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ブラジル人が、耳から入る日本語をそのまま忠実に書き留めたものである。Americanがメリケンに聞こえるたぐいで、およそ正確とはいえないだろう。しかし、この移民記念館(サンパウロ州立移民収容所跡)の台帳とこちらの史料館の移民原簿を照合すれば、より明確な日本人の姓名が浮き彫りになるはずである。「おがさわら」と「おがさはら」、「こうえい」か「きみえい」の区別も迷いも消えるだろう。
というわけで、これは日本移民百周年にふさわしい日伯共同事業のひとつとして期待されている。 (おわり)
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