塩 ひ と つ ま み

■ごく自然に 

ジュニアクラスの生徒の送り迎えは親がします。
お昼12時、月1回の授業が終わって、お母さんが車で迎えにきました。
中1男子の彼は、小学2年からかれこれ6年間通っています。中学生になると、たいていは部活などで忙しくなって止めていくのですが、中学に入っても続けています。だれに強制されたわけでもありません。自分の意志できていますから、相当に料理が好きということになります。

そんなわが子を愛おしげに(目の前にいる私へのお世辞も少々)、
「お嫁さんはやっぱり料理が上手な人がいいわよね」
お母さんが呟きました。

「大丈夫。できなきゃ、代わりに僕がつくってやるよ!」
その返事に、お母さんも私もびっくりです。
まさか、そんなことばがもどってくるなんて思ってみません。私たちはニンマリして、思わず顔を見合わせてしまいました。まあ、いつのまにそんな気の利いたセリフを吐くようになったのかしら。
はじめはそれほど料理が好きそうには見えませんでした。むしろ、集中力を欠いて時間をもてあますことのほうが多く、言うことをきかなかったり、時にはすねて反抗的な態度をとることもありました。変化があらわれたのは、5年生あたりからです。下級生の面倒をみるようになりました。女の子が多いですから、それを意識しだしたともいえるでしょう。学校の勉強の話から打ち解けていくうちに、他の子に気配りを見せるようになっていきました。それまでは周囲には目もくれず、なんでも自分でやっていました。それが、
「やってみる?」「やらない?」
なんて、塩の入った小さじの手を止めて、そばの子に聞いてみたりするようになったのです。大きな成長です。

実は、迎えにきたお母さんは、この学園随一の生徒さんでした。いま50代ですが、ジュニアクラスをはじめとしてベーシッククラス、アドバンスクラス、ティータイムクラス、専攻科、フランス料理専科の全科目を総なめ、13年にわたって通い続けた唯一の人です。中学3年のときには一般クラスに入り、大人に交じって勉強していました。挙句、そのまま料理の道を進んで、いまは管理栄養士さんとして活躍中です。
卒業生がお子さんをジュニアクラスに入れるケースはたくさんあります。でもジュニアクラスを終わった人のジュニア、いわば「ジュニアのジュニア」という彼のような例は、ジュニアクラス43年の歴史の中でも初めてです。感慨を覚えずにはいられません。

彼の言ったことばは、「料理男子」がもてはやされる昨今の風潮を映してもいます。もてはやされるということは、まだまだ奇異の目で見られているということです、男性の側からも女性の側からも。でも彼については、料理をすることを厭わず、その役割を女性と取って代わってもなんとも思わない。少しの偏見ももっていません。すすんで、というより、ごく自然に気負うことなく男子が厨房に入る、家庭での料理当番がまったく性別に頓着しない時代がすぐそこまできています。

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<これまでの塩ひとつまみ>
【野口料理学園】

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