塩 ひ と つ ま み

この2月まで毎週土曜日に発行されていたフリーペーパー「かわせみ」にJICAの日系シニアボランティアとしての活動を通して感じた様々のことを、月に一度、12回書かせていただきました。「かわせみ」を発行していた「タウン企画」のご好意で、HP「家庭料理が一番!」の「塩ひとつまみ」に載せるご許可をいただきました。つたない文章ですが、良かったら、私のモジ・ダス・クルーゼスでの「食」を中心にした活動と同時に、ブラジルでの生活、日系社会とのかかわりについてお読みいただけたら、幸いです。

モジから「ボンジーア」

●8 「大体で!」の国で「量る」  2018年8月11日掲載

真冬のモジから梅雨明けの甲府に帰国して18日目、7月14日の夜8時、「おはようございます!!アッ、間違えた、こんばんは、先生、大丈夫ですか?日本はすごい暑いってニュースを見て、心配になって・・・」なんと、モジから国際電話、家族ぐるみお付き合いをしていたご夫婦からでした。日本が猛暑日と聞いて、いてもたってもいられず、電話したとのこと。モジは急に寒くなって、最低気温が5℃位とか。その日から甲府は猛暑日続き、できることなら、モジに戻りたいと思う毎日です。


「野菜も重さをはかるんですか?」 モジの各地で講習会を始めたころ、私が準備をしていると、不思議そうに参加者がのぞき込んできました。「もちろん!」に、「エーッ?!マイズオウメーノス!」の答え。「大丈夫、大体で!」というポルトガル語です。料理に限らず、いろんなところで聞かれます。
 ブラジルに着いて初めの3週間はサンパウロで日系社会ボランティアについての研修。それぞれの職種の先輩から話を聞いた際に、「量ることを取り入れたい」と言ったら、完全否定されました。「無理!!ここはブラジルよ、そんなことできるわけがないわよ!!」
 モジに着いて、2カ月間、食材、調味料などの調査と同時に、講習を申し込んでくれた婦人部の調理室を見せてもらいに出かけ、「道具は?」と言いながら、「計る道具」をさがしたところ、ほとんどありませんでした・・・これが先輩の言ってたこと、何事も、マイズオウメーノス?!計量カップはなぜかどこの婦人部にもありました。
調理器具の店  調理器具の店に行き、ブラジル製の大さじ小さじのセットを3組、ハカリも1g〜10キロまで計れるデジタルのものを購入。レシピには必ず、食材は重さ、調味料は大さじ小さじで書きました。初めが肝心、準備で肉、野菜などのの重さをはかっておきました。調味料を適当に入れようとしたら、「はかってください」と計量スプーンをさしだし続けました・・・どんなに嫌がられても!!

ブラジルの大さじ小さじ デジタルのはかり

 「計る」基本をわかってもらわなければ、ブラジルにやってきた意味がない・・・とはちょっと大げさかもしれませんが、母からの教えで45年以上持ち続けている「信念」。そう簡単に変えられるものではありません。それは「我が家の味」を作ってもらうための「もと」だからです。実習した味が、我が家には濃い、薄い、甘い、塩辛い・・・そのとき、もとがわかれば、すぐに我が家の味を作り出せるのです。

講習会材料の準備 講習会の様子

 講習を始めて1年たったころ、巡回している8カ所の婦人部で、「もう、先生が持ってこなくても大丈夫」と、計量スプーンとハカリを買ってくれました。自分用に買った方も大勢います。売り切れで、サンパウロから取り寄せていると言われたり、別の店では、「この頃、メジーダ(計量するもの)やバランサ(ハカリ)を日本の人がよく買いに来るけど、何かあったの?」と聞かれたとか・・・

 「私はずーっとこれで料理をしてきたの。」と自宅からスープ用とコーヒー用のスプーン、水用のコップを持ってきた方がいました。コーヒー用で水をスープ用に入れ、「3杯入ったから、大さじ、小さじの関係といっしょでしょ?」さらにそれぞれのスプーンとコップの水を、計量スプーン、計量カップにいれてみて、「大体、大丈夫ね!」・・・このとき、自分の仕事に信念を持っていたら、必ずそれは相手に伝わると確信しました。
 でも、料理とは、科学の実験ではありません。「きちんと計るのは大切。そこに食べてもらう人への愛情という調味料を一つまみ、わすれないで!」・・これは母の口癖、これも今ではすっかり私のものになっています。もちろん、きちんと計ってなんて野暮なことは言いません。マイズオウメーノス!!

<これまでの塩ひとつまみ>
【野口料理学園】

§【ご意見、ご感想をお寄せください。ご質問もどうぞ。】  ichiban@kateiryouri.com


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