塩 ひ と つ ま み

■質問の意図は? 

時として、思いがけない質問に晒されることがあります。専門外のことならまだしも、自分のフィールドだった場合、「戸惑い度」「ハテナ度」は急上昇します。
ブラジル人とZoomを使ったオンラインレッスンの最中でした。参加者は日系人3名と非日系人の4名。ブラジルはサンパウロ市と他の2都市、1人はボリビアのサンタクルス市に在住しています。

メニューは「鯖(さば)のホイル焼き」。日本からの私の画面を見ながら、双方向で一緒に作っていきます。アルミホイルにネギを置き、三枚おろしの鯖に味をととのえた味噌をかけ、ニンジン、ピーマンをのせて包むときでした。
「先生、アルミの光る側と光らない側のどっちに置くんですか?」
(決まっているでしょうに。ヘンなこと聞くのね)と思いながらも、
「はい、光らない方に置きまーす」
さらっと答えました。けれど、のちのちまでそれが気になって仕方ありません。日本人なら当然のごとく、材料はアルミ箔(はく)の内側・裏側・光らない方に包んで、外側・表側・光る方を見せて食卓に載せます。常識です。何の疑いも持ちません。でも、そんな質問をするということは、もしかしたら、彼女たちにとってそれは暗黙の了解ではないのでは?という疑問が、私の中に生じました。

そこで、私のポルトガル語の先生に訊ねました。彼女は生粋のカリオカ(リオっ子。生まれも育ちもリオデジャネイロ)です。
「そうです、スミーコさん(私のことです)。ブラジル人は光っている方で包みます」
やはり、向こうの習慣は違うようです。
理由も説明してくれました。二つあるそうです。
① 材料がくっつかないから。
② 熱がよく通るから。
実際に、関連するブラジル料理のサイトを検索してくれました。イモをオーブンに入れる画像で、確かに光っている方で包んでいます。

なるほど、いかにも科学的根拠に基づいた理由で説得力があります。
この理由が正しいとすれば、
「なぜ私たち日本人は光っている方で包まないのかしら」
と自問してしまいます。
そして、私なりに自答してみました。
製造の工程上、技術的に裏表が出るのは避けられないのは想像できます。光る、光らないでの機能差もなさそうに思えます。その前提に立てば、日本人の美的感覚からいって、食べてもらう人にはきれいな方をお出ししたいのが人情です。見栄えの問題、今で言うインスタ映え、でしょうか。私にはこんな単純な答えしか用意できませんでした。

ここから先は専門家に聞いてみましょう。インターネットで「アルミホイルの裏表」をキーワードに打ち込みました。すると、山のように出てきました。拾い読みをして、いくつかのことが分かりました。
結論から言うと、製造過程から光沢面・非光沢面に分かれるものの、基本的に裏表はなく、どちらを使ってもかまわないとのことです。機能に差はないという私の推測は外れていませんでしたが、あるサイトでは、アルミホイルで蒸し焼きにする場合、光沢のある面を内側にして食材を置くように勧めています。光沢のある方がややくっつきにくい性質があり、熱伝導率が高いので火が通りやすくふっくらと仕上がるとのことです。

オンラインレッスンでの私の答えは不正確でした。ポルトガル語の先生の指摘は正しかったのです。ブラジル人だから、日本人だから、美的感覚ウンヌンは見当外れということになります。もっと言えば、科学的事実を美意識が邪魔をし、見た目が優先されなければという「思い込み」を生んでいる。やっぱり日本人的なのかな?!ともかくも私の不勉強です。反省しなければなりません。

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【野口料理学園】

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