塩 ひ と つ ま み

■同じレシピでも中身は・・・(1) 

「家庭料理が一番!」のサイトに、11月の終わりからポルトガル語のレシピを載せています(AS RECEITAS)。週1回のペースで、現在12品。これは2016年から2年にわたってブラジル(SP州モジ・ダス・クルーゼス市)において、日本の家庭料理を教えていた時に使用したレシピが基になっています。

その時の受講者は日系人が主で、日本人(1世)は数える程度でした。2世といっても年配の方が多く、1世と変わりなく日本語を流暢に話します。そこでレシピも大丈夫だろうと、日本語で作成しました。ただし、日本で使っていたレシピそのものではありません。材料は同じでも栄養分、水分など成分が違います。気候風土が異なるので当然です。醤油・塩・砂糖など調味料も地元産はあるものの日本製と同一ではありませんから、事前にかならず実際に一・二度作ってみます。それで味を確認し、数量を調整して講習に臨みました。

念のため、ポルトガル語に訳したレシピも一部用意しました。私が個人的に習っていた2世のバイリンガルの先生と、授業の中で自分用に作成したものです。
ところが、いざレシピを配る段になって、みんなが欲しいと手を挙げたのは、ポルトガル語の方でした。予想は大外れ。「日本語が話せるのだから読める」という私の認識はものの見事に打ち砕かれました。あわててポルトガル語版をコピーしてもらったのでした。

さて、今度のポルトガル語版のサイトです。掲載にあたって、レシピの中の材料の数量・数値を、逆にブラジル用から日本用に置き換えれば済むと軽く考えていました。ここでもまた私の認識の甘さが露呈されました。ブラジルでの経験が用をなさなかったのです。

今、私がポルトガル語の指導を受けているのは非日系で生っ粋のカリオカ(リオっ子)。大学で国文学(ポルトガル語)と教育学を修め、来日して15年、日本語が堪能で料理好きという私にとっては願ってもない先生です。言葉遣い、とりわけ専門のポルトガル語は言い回しとか文法にたいへん厳しいです。

ブラジルで2世の先生と苦労して作ったポルトガル語のレシピは130品目に上っていました。ところが、カリオカ先生の握るハサミでこれらがズタズタに切り刻まれたも同然でした。唖然呆然。先生は言いました。「スミーコさん(私です)、このレシピは日系人には分かるかもしれませんが、普通のブラジル人には分かりません!」。
「えっ、そうなんですか?!」
ショックでした。でも、先生の指摘にはなるほどと思わせるところがあります。冷静に吟味すると、合点のいくところが少なくありません。そこで私の言い分も聞いてもらって話し合う中で、興味深い点がいくつか浮かび上がってきました。

非日系のカリオカ先生の立ち位置は明快です。日系人は分かるかもしれないけれど、そうでない一般のブラジル人は無理という指摘です。正直、ハッとさせられました。日本の伝統や習慣を、濃淡はあるにせよ、また意識するかしないかは別にして、日系の人たちは身にまとっています。食生活においてもそうです。日本食の名前など取り立てて説明する必要はありませんし、料理に使われる材料、器具・道具、表現なども、身近にあって馴染みのあるものが多い。したがって実体験がなくても想像は難しいことではなく、レシピを理解する上で障害はほとんどありません。

日系でないブラジル人はそうはいきません。日本文化の背景を持たないし、日常生活の中にもそのような環境は皆無です。カリオカ先生の指摘は至極もっともです。ブラジルで日系の先生と私が訳したポルトガル語のレシピは、そうした配慮を欠いていました。日系社会を対象にしたボランティア活動でしたから、眼中になかったといえます。お恥ずかしい限りです。 (つづく)

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【野口料理学園】

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