塩 ひ と つ ま み

■「黒」のイメージ 

●いきなりですが、「黒い手袋」、あなただったら何を連想しますか?
私なら、「犯罪」。刑事ドラマが好きですから、咄嗟にそれが頭に浮かびました。暗く、重く、抑圧された、後ろめたい反社会的な作業・行動のイメージです。握られているのは「短刀」(包丁ではありません、さすがに)。
反対に「白い手袋」はと訊かれると、「手術」。明るく、清潔で、晴れ晴れした素顔のイメージです。握られているのは「メス」、偶然にもどちらも刃物です。

「手袋もマスクも白に決まってるでしょ」。年配の人ならそんな固定観念があります。私もその一人ですから、初めて黒い手袋で調理する画面をテレビで見たときはゾッと、いえギョッとしました。
料理をするには素手が基本です。調理用手袋なら、特に、学校給食や社員食堂など大量に調理する現場で使われています。その場合は白手袋が見慣れた光景です。なので、手袋着用はいいとして、どうして黒なんだろ? 調理と黒手袋が、にわかには結びつきませんでした。

●調理に黒手袋が着用され出したのはいつ頃からか正確には分かりませんが、新型コロナの流行あたりから目立って多くなったとの印象があります。
新型コロナより少し前、ニューヨークの衛生局が寿司職人の手袋着用が義務化されたというニュースが流れました。寿司を素手で握ってはいけないというのです。日本人の誰もが驚きました。手袋して握った寿司なんか食えるか!と。
アメリカ人からしたら、ごはんや生の魚を素手で扱うなんて不潔極まりないと思うのでしょう。しかも見ている真ん前でそれをやられたら食欲減退、どころか雑菌の感染が先に立って一歩も二歩も引いてしまうのでしょう。

そもそもアメリカ人は衛生観念が日本人と比べて低そうです。日本人の潔癖さの象徴として、こんにち世界が絶賛するトイレが挙げられます。独特の気候・風土や伝統・習慣に由来する日本人の徹底した清潔感の成せる業です。食の世界でもシカリです。

●アメリカの寿司職人のほとんどは非日系人と聞きます。そこに日本国内のような衛生観念や衛生管理を求めるのは無理なのかも知れません。食中毒の発生に危機感を持ったニューヨークの衛生局がNGを出したのもムベナルカナです。でも、手袋着用を義務化したのは理解できるとして、それがどうして黒なのか、白では駄目なのでしょうか。

おそらくアメリカ人にとって清潔感を強調するには白より黒なのでしょう。それ以外の色では物足りない、弱い、迫力がないと感じるのかも。誇張が当たり前の国ですから、"ほら見て、ちゃんと手袋をしていますよ”と、これ見よがしに強くアピールする必要があるのでしょう。

日本ならまず「白」。汚れが目立たない・分からない黒は、かえって不安を掻き立てます。白ければ汚れてもすぐ分かるし、その時点で、きれいに洗うか取り代えるでしょう。でも手袋をするより、頻繁に手を洗ってくれた方がお客さんは衛生的で安全安心感を覚えます。職人さんのほうだって、手袋をしているとシャリの硬さや温度、握り具合、ネタの鮮度がよく分からないでしょうに。だいいち、野暮です。粋じゃありませんよね。

●日本では、お寿司屋さんが素手で握ってはいけないという法令は聞いたことがありません(慣例として黙認されているだけなのか分かりませんが)。ただし、一般の飲食店の厨房では黒手袋をして調理する姿をちょくちょく見かけるようになりました。お客さんの目に触れることもあれば、ないこともあります。

この場合、黒にする理由は何でしょう。必然性でもあるのかしら。たとえば、材質がゴムとして、天然だとアレルギーがある人もいるでしょうから、人工ゴムとすれば、黒のほうが製造工程上で都合よく経済的だとか‥‥‥。
そうでなければ、アメリカ同様にブラックは"手袋をしてます感"が強調できるからなのでしょうか。日本も特に若年層はそうした感覚を抵抗なく受け入れるのか知れません。白と比べれば、まちがいなく黒は存在感があります。それが清潔感と直結し、カッコいいとさえ思えるのでしょうね。

寿司に続き、同じように目の前のカウンターで握るおにぎりも世界的なブームになりそうですが、やはり黒手袋で握るのでしょうか。でもこちらは海苔でくるむので、黒い色とは親和性がありそうです⁈

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【野口料理学園】

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