| 塩 ひ と つ ま み |
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■半熟のおいしさ●「技術立国」が「観光立国」に変わったの⁈ と思われるほど、海外からの観光客が激増しています。名所見学と同時に、寿司やラーメンを始めとする本場の日本食に舌鼓を打つ人々で大賑わい。ただし、訪日数回の日本通を自任する外国人でも、「玉子かけご飯」には二の足を踏むようです。炊き立ての熱々ご飯の上に、醤油で溶いた玉子をかけて食べる究極のシンプル料理。日本人なら子供のころから慣れ親しんだ当たり前すぎるメニューですが、お米を主食としない外国の人でも、おいしく食べてくれるに違いないと私たちは思いがちです。
ところが…。躊躇なく手を出す人はマレ、断るのが普通です。熱心に勧めても、頑なに拒むでしょう。日本的な遠慮ではありません。心底、嫌がっている風です。 今や、私たちが生の魚を好んで食べる民族であることは世界中に周知のところです。が、生の卵まで食するのは知れ渡っていません。なので、日本に来て初めてそれを知って驚き呆れるのです。なぜか? 卵が、安全安心な食材でないと知っているからです。洗浄不足か温度調整など保管方法に問題があるのか、詳細は定かでありませんが…。
●ブラジルでもそうでした。JICAボランティアで最初に赴任したとき(2016~18年)です。講習で親子丼を作ろうとしました。人気の和食です。ご飯の上にのせる玉子を半熟に煮たのですが、受け付けないのです。どうしてもしっかり煮ないと承知しません。半熟だと怖いというのです、サルモネラ菌が。これでは玉子がボロボロ、カチカチ。しっとりした半熟玉子とごはんとの絶妙なハーモニーが繰り出す親子どん独特の風味が味わえません。かに玉、オムレツも同じです。卵は、生はもちろん半熟でも安心できないのだとか。残念ながら、半熟玉子のおいしさを伝えることができませんでした。
そこは大都市サンパウロ市に近いモジ・ダス・クルーゼス市でした。日系人がたくさんいることで有名で、戦前から移民の皆さんが持ち込んだ日本の食文化・食習慣が色濃く残っている町です。それにサンパウロ市には日本企業の駐在員家族がたくさん住んでいて、その人たちの生活スタイルを見聞きしたり、直接彼らと交流する機会などもあって、「日本」との縁は浅からぬものがあります。そうした条件下でも、卵は100%火を通さないと安心できない、という固定観念がありました。
●二度目(2022~24年)の赴任地は、前任地からざっと3000キロも北に上がったアマゾン川河口のベレン市。日系人の数はサンパウロ市よりずっと少数です。気候も赤道がすぐのところ(南緯1度28分)の熱帯で、卵への不安感は一層大きいものがあります。親子丼のリクエストがありましたが、モジ市での経験から、私は賛成しませんでした。
スーパーで買った卵のパックは、ナント!冷蔵庫に入れないでそのまま常温で置いておく人の何と多いことか、あの暑いところでです。「卵は要冷蔵」のイメージが薄い。卵だけではなく、食品全般にたいしての管理感覚がそうなのです。
私もときどきスーパーで卵を買い、帰宅後使おうとすると、すでに腐っていたことが何度かありました。温度差が大きいので、直前まで冷蔵庫に入れておき、出したらその手で割るようにしていました。そして日本でもそうしますが、かならず一旦器にあけて、念入りに安全かどうか確かめます。
スーパーの卵は値段が異なります。同じ大きさなのに2倍も開きがありました。生産者によって、あるいは販売元によって違うようです。つまり出処(でどこ)がハッキリしていれば、それだけ品質に信頼がおけて値も張るというわけです。それでもダメな卵が混じっていることがあるので、卵全体の信頼度が低いということです。
私も郷に入れば郷に従え、玉子かけご飯などオソロシクテ食べたいとも思いませんでした。●ここまでは、あくまで一般的な様相です。
日本と同レベルの信頼がおける高品質の卵を生産している業者もいます。主に日系農家で、この人たちの卵が手に入るところなら、家庭でもレストラン(やはり日系人経営)でも親子丼や玉子かけご飯、オムレツは安心して食べることができます。玉子かけご飯は、日本では変哲もないごくごく平凡な食べ物なのに、じつは外国人の目から見たら、ひどく特殊というか、一風変わった食習慣なのだということが、インバウンドの増加に伴い、日本人の間にもようやく理解されてきた感があります(似たような図式は他に共同風呂とか、すぐに謝ってしまうところとか、神社やお寺で手を合わせクリスマスを祝うなどの行為)。こうした視点は、観光客もそうですが、人手不足の昨今、外国人労働者の受入れがますます必要となっていくこの先、この人たちと上手に共生していく上で、私たちの心構えのひとつのヒントになりそうな気がします。
【野口料理学園】
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