| 塩 ひ と つ ま み |
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好きにしたら●タブー。共同体で、してはならない決まり事のこと。あちこち世の中にたくさん潜んでいます。中でも死にまつわる、あるいは死を連想させるタブーは、縁起が悪いとして忌み嫌われます。
でもあまりアテにはなりません。昨今のテレビコマーシャルを見ていて、多くの皆さんが気付いていると思います。そうです、お葬式の宣伝。複数社が競争で流すので数えきれないほど目に入ってきます。これにお墓、墓地、お仏壇のも加わります。まだあります。「死亡保険」。死亡時に落ちる保険なので死亡保険で間違いないのですが、「死亡」の文字はあまりに露骨、ドギッとします。以前は「生命保険」でした。これまで業界内(葬儀、広告)には自粛、自主規制が働いていたのでしょう。縁起でもないとして大っぴらに広告にのせるのは憚(はばか)られてきたはずのこうしたタブーが、いつの間にか雲散してしまったようです。しかも感心するのは、死に関するものなのに、どれもこれも明るくて、あっけらかん。陰気で重苦しい内容のものは、ひとつとしてありません。
平均寿命が延びて90歳以上も珍しくなくなりました。高齢社会、これも一因でしょう。家族によっては、長命の自然(老衰)死は悲しみより、よくぞここまで生きましたと、むしろ喜んだり、褒めたり、誇ることさえあります。「幸福な死」といえます。まもなく最大層の団塊世代が80,90の長寿ラインに差し掛かかり、亡くなる人が格段に増えるにつれてますますその傾向は強まりそうです。
●他方で、別の流れが。新型コロナの流行です。このパンデミックでたくさんの人が亡くなりました。自然死でなく病死、それも急死、理不尽な死です。お葬式は身内だけで目立たずできるだけ質素に、告別式はやらない家族も出てきました。3密の規制がかかりましたから、事実上お葬式の規模は厳しい制約を受けました。
こうした高齢死の増加と、パンデミックの突然死が重なって、私たちは死と葬儀がこれまで以上に身近になり、関心を持たざるを得なくなったと言えるかもしれません。お葬式にはいろいろな形式があります。大きく分ければ、宗教系かそうでないかですが、これに経済的な都合が絡んで、じつに多様化しています。形式はさておいて、やはり費用の不明瞭さが背景にあります。仏式でいうと、お寺や戒名の金額が一様ではありません。思っていた以上の金額を請求されたり、断りづらい状況下で足元を見られ、言われるがまま高額の金額を払うしかなかったという話を私の近辺でも耳にしました。
そこで、なるべくこじんまりとした規模で、沈痛な空気を抑制しつつ最低限の尊厳を保ちながら、どこか開放的で未来志向を感じさせる葬儀を適正価格で執り行う。そんなコンセプトから今のようなCMが編み出されたのでしょう。そしてそれは、ある程度成功しているようです。宣伝の力を感じます。
●さて、私ども夫婦も「そのとき」を考える年齢になりました。
主人は、葬儀はするな、墓もいらないの断固拒絶派。田舎に両親の墓はありますが、入らないつもりのようです。かつて高名な検事が『人は死ねばゴミになる』と喝破して話題を呼びました。俺も大賛成だよ、と真顔で言ったのを記憶しています。 「ゴミ袋に入れて出すの?」と聞くと、
「さすがにそれはマズイだろ。そうだな、甲斐駒の登山道にハイキングのなりで入り、穴の空いた袋から遺灰がこぼれ落ちるようにして、なくなったら引き返せばいい」とノタマイマシタ。山男の本心でしょう。
「じゃあ、私は?」
「好きにしたらいい」
ですって……。
【野口料理学園】
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