| 塩 ひ と つ ま み |
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団十郎と痴楽●久しぶりに甲府駅に出ました。改めて南口から正面の駅舎をながめると、すぐ背後に山が迫って、本当に近い。愛宕山を始めとして400m以上の山がいくつも連なる大きな山塊です。県庁所在地で、街がこんなに山のそばにある所って他にないのでは(スミマセン、ほかの県庁所在地はあまり知らないのですが)。その駅舎から県庁舎までの距離はざっと200m。それより近いのが甲府城で、隣接しています。「山の都」甲府市の面目躍如といったところです。
甲府盆地から見える山々で一番のお気に入りは富士山、と言いたいところですが、違います。
それは甲斐駒ヶ岳(通称「甲斐駒」)。甲府駅から少し南に下った東西を走る広い通りから望む姿は、まるでピラミッドを思わせる三角形の尖塔です。富士山の整い過ぎた顔はすぐ飽きます。完璧な独立峰でどこからでも見えるので、周りの多彩な借景で持っているようなもの。一方の甲斐駒は、「山の団十郎」とか呼ばれているらしいですが、私なら、甘顔の中にもキリリと苦み走って、表情が豊か、どこかクールで味があるショーン・コネリー(チト古い)かジョージ・クルーニーかな……。
●この山のユニークさは山容だけではありません。
登山口に近い韮崎(にらざき)方面に展望場所を移します。分かりやすいのは中央本線日野春(ひのはる)駅。同駅に降りたって、驚かない人はいないでしょう。
「これって、あの甲斐駒? ウソでしょ!」そこにいるのは団十郎でもショーン・コネリーでも、ましてジョージ・クルーニーでもありません。日英米の美男お三方からはほど遠い、ただのむくつけきゲンコツ顔の醜男(ぶおとこ)。とても"同一人物"とは信じがたい激しい落差に、誰しも目を剥(む)きます。
昔の落語家のフレーズを借りると、「破壞し尽くされた顔の持ち主」。かの四代目柳亭痴楽の前口上が有名でした。特徴あるごつごつした顔立ちを記憶している方もいらっしゃると思います(野太い声も魅力的でした)。団十郎と痴楽、眺める場所によって極端な美醜二つの顔をもつ男、いえ山。こう形容すれば想像がつくかも知れません。
●その落語家の話芸・話術が私を惹きつけます。仕事柄、学ぶことが多々あって、大いに参考になります。母が残したことばに、「料理を教えるコツは話術」というのがあります。料理を覚えてもらうには、手で教えるだけでなく、口も上手でないといけないということ。講習で手を止めてはいけない、口も滞ってはならない、文字通り「手八丁口八丁」が必要という教えです。
この点であの人たちの話芸・話術はとても勉強になります。気に入っている落語家といえば、古いところで三遊亭円生、亡くなった桂枝雀、現役だと桂文珍。古典だけでなく、これも故人の桂米丸や三遊亭歌奴の創作落語も好むところでした。彼らの丁寧でゆっくり分かりやすく、間合いを考えながらメリハリをつけた巧みな話しぶりはそれは見事です。これに身振り手振りが加わって、より一層効果を上げているのを見逃してはなりません。
私もこれに倣(なら)い、生徒さんの気を逸らさないように、日頃仕込んでおいた政治、芸能、事件、事故などの時事ネタやら、歴史、観光、趣味等の雑学を織り交ぜながら、ところどころにユーモアを散りばめてフル回転をするのですが(もちろん手を休めずに)、思い通りにはいかないものです。
料理の授業は、落語のように一方的な喋りでは終わりません。筋書き(材料・作り方の説明)はあるものの、疑問質問に答えなければならない双方向です。臨機応変な対応が求められます。それも日本料理、西洋料理、中国料理、お菓子、パンなど各ジャンルをカバーし、なおかつ老若男女、小・中学生のジュニアクラスから80代まで幅広い年代にまたがるから大変です。
ここまでキャリアでは母に負けていませんが、話芸・話術を含めたトータルな技量においてまだまだ及ばない自分をもどかしく思っています。
【野口料理学園】
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