| 塩 ひ と つ ま み |
|---|
~させていただく●「お客様は神様」、ではなくなりそうです。東京都をはじめとして、全国いくつかの自治体で「カスタマーハラスメント(カスハラ)防止条例」が施行されていましたが、注意や警告にとどまって罰則はありませんでした。それがここへきて、愛知県桑名市が氏名公表のほか、50万円以下の罰金を科す条例を出しました。
売る側と買う側、これまでは圧倒的に買う側のお客さんが優位でした。それが神様の域にまで達して、売る側の店員さんに対して、罵詈雑言を浴びせたり、土下座を強要したりする行為が目に余るようになってきたからです。
その種のトラブルはよく報道されます。昨今は、外国人の労働者が増えたこともあって、日本語のよく分からないコンビニの店員さんにいら立ったり、習慣やマナーの違いから誤解されて大ごとに発展したなどのケースが見られて、この傾向に拍車をかけているようです。
●「お客様は~」このフレーズは、もともと某有名歌手、某有名経営者が口にして敷衍したとされます。お金を払う側、サービスを受ける側が絶対的に優位という構図。それをいいことに、優位とされている側による行き過ぎたクレームや無理難題な要求が目立ちはじめて、とうとう人権侵害にふれるところまでエスカレート、これにブレーキをかけるということなのでしょう。
本来、売り手と買い手は対等のはずです。欲しい人に対価で渡す、ウインウインの関係です。でもその軸は、需給のバランスで移動します。それが許容範囲内なら問題ないのですが、許容範囲を超えて傾きすぎると、売ってやる・買ってやるに偏ってしまいます。
物資欠乏の時代は売る方が強かったのですが、高度経済成長期に入って大量生産された物が簡単に入手できるようになると、供給側の競争が激しくなって買う側が優位に立ちます。それが当たり前の時代がずっと続いて、お金を払うお客さんの優位は不動となり、驕慢・横暴になっていきます。短絡的に過ぎるかもしれませんが、カスハラのよって来(きた)るところはそこではないでしょうか。
●「お客様は神様です」の神様は、他にもいました。上の世代の人には身に覚えがあるはずです。昔は、「お客様は神様」ならぬ、「お役人は神様」でした。ビジネスの世界ではなく、権威・権力の世界です。
お役所のような公的機関、それに三公社五現業と呼ばれた国鉄、郵便局などの公共団体の窓口の応対は、総じて不愛想で堅苦しいものでした。規則書に、腰を低くしたり愛想よくふるまったりしてはならないという条項があるのではないかと思われるほど、ぶっきらぼうで素っ気なかったのです。言ってみれば、「慇懃(いんぎん)無礼」。一見して態度は丁寧だが、腹の底、心の中では相手を見下しているの意味です。
変化が起きたのは、民営化によってです。劇的に変わりました。みんなびっくりしました。変われば変わるものだと。でも大歓迎でした。権威・権力の権化である警察も、こうした風潮にさすがに変わらざるを得なかったようです。変化の落差はお役人の比ではありません。天地の差と言って過言ではないでしょう。以前の警察官の応対を知っている人からすると、敬語や柔らかい物腰は気味悪いほどで、歓迎はするとしても、キツネにつままれた感覚ではなかったでしょうか。
●もうひとつ、あります。私にとってはこちらの方が衝撃は大きかったです。政治の世界です。1960年代半ばだったと思います。公明党が結成され、国政選挙に躍り出ました。その立候補者たちの演説の中で、「~させていただく」が連発されたことです。
政治家が何かをさせていただく? あり得ないフレーズです。政治家がそんなヘリクダッタ表現をするなんて考えもしませんでした。威圧的言動が普通なのが政治家です。謙遜、謙譲のケの字も見せることはありません。ところが、何十人という公明党の立候補者が一般大衆に向かってそろって「立候補させていただく」を連呼するのですから、それは新鮮でした。
結果は見事、全員当選。バックにある宗教団体の強力な支持のおかげもあったでしょうが、それこそ一般大衆の中にも賛同者は少なくなかったのではないでしょうか。この「~させていただく」のインパクトの波は、選挙、政治家、政界の枠を突き抜けて、全国津々浦々に波及したようです。それも一時の流行語にとどまらず、あらゆる分野に浸透し、定着し、今に至るまで使われています。いささか乱用、乱発の嫌いはありますが。
する側・される側、そこに介在するものがお金・物・サービスであったり、権威・権力であったりしますが、神様にはご遠慮願って、厳密に境界線を引くのではなく、「遊び」ないしは「余裕」という許容範囲があってしかるべきで、お互いにお互いの立場を理解し尊重し合い、カスハラ防止条約の出番が来ないような関係を築きたいものです。
【野口料理学園】
§【ご意見、ご感想をお寄せください。ご質問もどうぞ。】 ichiban@kateiryouri.com
| ホーム | | | 月別 | | | ジャンル別 | | | これまでのお菓子 | | | これまでのジュニア | | | 学園案内 | | | ケーキ屋さん |
|---|